今回レビューする映画はこちら。
死刑にいたる病
映画紹介
まだこの映画を観ていない方は、こちらの記事をご覧ください。
ざっくりレビュー
ここから先はネタバレがあります。まだこの映画を観ていない方はご注意ください。
ゾッとする怖さ。
ずっと目が離せなかった。
阿部サダヲってこういう役も演じられるんだ。
マジですごい。
何考えてるのかわからない感じがめっちゃ怖かった。
岡田健史も役のイメージにぴったり。
ボソボソ話す感じとか、急に早口になって熱くなる感じとか。
ただ、今回一番目を引いたのは宮崎優かも。
この映画で初めて知ったんだけど、めっちゃ可愛いし、最後のあの演技は震えた。
ずっと暗くて陰湿な雰囲気が続く中、サスペンス要素もあって最後まで面白かった。
かなり激しめのグロシーンもあるので苦手な人は注意。
感想・考察・おすすめポイント
1.榛村の底知れぬ怖さ
そもそも阿部サダヲがめっちゃ好き。
「舞妓Haaaan!!!」や「謝罪の王様」みたいなハチャメチャな役のイメージがあるけど、榛村みたいなサイコパスも自然で違和感ゼロ。
本当にサイコパスなんじゃ…とさえ思わせる。
演技力半端ない。
雅也が初めて榛村と対面するシーン。
「僕はもう死刑判決を受けた。それでいいと思ってる。当たり前だよね。でも、1つだけ納得がいかないことがあってね。僕は24件の殺人容疑で逮捕されて、その中の9件が立件されたんだけど知ってるよね?」
「はい」
「その9件目の事件は僕がやった事件じゃないんだ」
「どういうことですか」
「9件目の事件は僕以外の誰かが犯人だってことだよ」
物語が始まる感じがして、ゾクゾクした。
雅也も怯えている感じで、言葉がたどたどしい。
2度目の対面。
9件目の事件の被害者である根津かおるがストーカー被害にあっていたことを知った雅也。
上司が怪しいと榛村に伝える。
「別の人間の可能性は?」
これ、改めて観返すと別の人間の存在を知ってて聞いてるよね。
雅也も言葉のたどたどしさはなく、自分の考えをストレートに伝えている。
そこをきちんと褒める榛村。
このあたりから雅也は完全に榛村にコントロールされてると思う。
3度目の対面。
榛村が自分の本当の父親ではないかと疑う雅也。
榛村はYESともNOとも答えない。
ガラス越しに指を近づける榛村。
「今、君の手を握れたらいいのに」
雅也も指を近づける。
次の瞬間、ガラスを突き抜けて指が絡み合う。
ガラスがないことに全然気付かなかったから、指が触れ合った瞬間びっくりした。
最後の対面。
会話の内容は置いといて、このシーンの会話のキャッチボールがなんか心地よい。
「彼らにしたことを覚えてますか?」
「僕は彼らが好きだったから、彼らが親にはしてもらえないことをしてあげたかっただけだよ」
「いたぶることですか」
「認めてあげることだよ」
「君は昔と少しも変わらないな」
「金山さんと弟さんはお互いを切りつけあったことになってますけど、違いますよね?」
「ある意味では違わない」
「あなたは金山さん達に…決めさせた」
ここで、ロン毛榛村の「今日はどっちの子が痛い遊びしてくれるの?」が炸裂。
「金山さんや金山さんの弟に対する執着と同じように、根津かおるさんにも執着したのではないかと」
「一輝くんと大地くんに執着?僕が?」
「金山さんがこれを見せてくれました」
榛村から一輝宛ての封筒を見せる雅也。
「執着してるじゃありませんか」
「これは脅迫ですか?会いに来なければ、根津さんを指差してしまったことを証言するとも取れます」
「それを証言されたからって、一輝くんは困るのかな?」
「彼はそのことに罪悪感がありましたから」
「罪悪感があったらすべてを正直に言いたくなるんじゃないかな?」
「だから俺には言ったんですよ」
「違うね」
「親から抑圧された子どもは、総じて自尊心が低い」
「ん?」
「自尊心が低いから、労わってあげたかった。僕も、あなたの元獲物なんですね」
「だから、あの頃の君はまだ中学生だった」
「僕が高校生になるのを待ってたんじゃありませんか。時間をかけて信頼関係を築いてから、ゆっくりと痛みを味わってもらう。あなたが言ったんですよ」
「人を殺しかけました。でも、できませんでした。その時、僕はあなたの子じゃないと思いました」
「よかったじゃないか。こっち側に来たらもう戻れないよ。君が本当の息子だったらよかったんだけどな。信じたかったのは僕だよ」
最後には刑務官もマインドコントロールする榛村。
もう超能力者の域じゃん。
てか、刑務官はなぜ一言も発しないのか。
ロボットか?
それと、雅也の最後の涙はなんだったんだろう。
そこがいまいち理解できなかった。
2.佐村の怒りの感情を表現する動作
榛村が根津かおるの殺害に関しても有罪になったのは、とある目撃証言があったからだった。
その目撃者は刑事訴訟法157条の5が適用され、裁判で遮蔽措置が講じられている。
この条項が適用されるのは被害者の場合が多い。
雅也はそのことを弁護士である佐村に尋ねた。
証人である金山一輝は、10歳の頃に榛村と関係があった。
納得できない雅也が佐村に詰め寄る。
「警察は捜査の間違いを認めようとしないし、検察は起訴したら是が非でも有罪に持ち込もうとする。だから、信憑性の低い目撃証言だとわかっていながら採用したんじゃないですか」
「筧井さん…」
「これじゃ、本当の犯人は野放しじゃないですか」
「榛村大和は連続殺人鬼ですよ。彼の言うことを真に受けすぎてませんか」
「冷静に事件を見ているつもりですけど」
佐村は榛村が14歳の頃に起こした事件の話をする。
女の子が大怪我を負った悲惨な事件。
「佐村さんは榛村大和の弁護人ですよね?依頼人の言うことは信じないんですか?」
「ええ、私は彼の弁護人です。あなたは違う」
ここの佐村の表情がたまらん。
「金山一輝の目撃証言は不自然だと思いましたよね」
「榛村の手口もう一度読み直して冷静になってください」
「佐村さんこそ予断を持ってるんじゃありませんか」
「…勝手に名刺つくって関係者に会ってますよね?」
急に話を逸らす佐村。
「すいませんでした」
「探偵ごっこなら私が関わってない事件でやってください」
ここ!
ここで佐村がファイルをクイってやる動作!
雅也に完全に言い負かされてたけど、最後の名刺の件でなんとか切り返してやったぞみたいな。
それがこのファイルクイっに全部表現されてる気がして、細かいけどすごいなって思った。
あと、この映画で唯一笑っちゃったシーン。
一輝と榛村の回想シーンで、榛村がベンチから起き上がった時。
ちょっ、髪型!?
転がってきたボールを手に取り、「当てちゃうぞー!」と子ども達と追いかけっこ。
ボールを頭にぶつけられて倒れる榛村。
なんか笑っちゃったんだけど、俺だけ?
3.一番ゾッとしたシーン
祖母の遺品を整理する母親。
「これどうしたらいいと思う。決めてくれない?お母さん決められないから」
雅也は「全部捨てていいんじゃない」と冗談を言う。
笑顔の2人を見て、「喪中だぞ。はしゃぐな!」と一喝する父親。
いや、お父さん怖すぎ。
雅也は段ボールの中から子どもの頃に描いた母親の絵を見つける。
そこに父親は描かれていない。
嘲笑する雅也。
ふと、その奥に古い写真を見つける。
そこに写っていたのは母親と榛村だった。
ここマジで怖かった。
この写真から雅也は自分の本当の父親は榛村なんじゃないかと疑い始める。
一緒に写っていた滝内に話を聞きにいった時、雅也がボソッと呟いた言葉。
「みんな彼を好きになる」
本当の悪人は、悪人の顔をしていない。
4.灯里のカバンに入っていた手紙の差出人
この映画の一番良いところを持っていったのは、加納灯里かな。
雨の中、雅也が手に怪我をして帰宅したところに遭遇。
いきなり白い服で血を拭う。
あああ、汚れちゃうよなんて思ったのも束の間、雅也の手をいきなりペロリ。
ぎゃあああああ。
他人の血を舐めるってなかなかよ。
雅也も欲情しちゃうよ、そりゃ。
ベッドでの「ねえ、どうしたの?」の言い方もめちゃかわ。
そして、ラストシーン。
「爪、綺麗だね」
「剝がしたく、なる?」
まさかの展開に口があんぐり。
ベッドから灯里のカバンが落ち、中から榛村からの手紙が。
「私はわかるなー、好きな人の一部を持っていたいって気持ち。彼も雅也くんならわかってくれるって。わかってくれるよね」
怖い怖い怖い怖い。
暗い中学時代を過ごしていた灯里もまた榛村の元獲物の1人だった。
灯里はいつから榛村にマインドコントロールされていたんだろう。
榛村のところから逃げ出した女の子が灯里って説もあるけど、果たして…
5.映画のタイトルの由来
この映画のタイトルは、デンマークの哲学者キェルケゴールの著書「死に至る病」が由来とされている。
映画の中でも、序盤の大学の講義でキェルケゴールの話をしている。
キェルケゴールは「死に至る病=絶望」と定義し、本当の自分から目を逸らした時に絶望は始まると言っている。
雅也も鬱屈した毎日に嫌気が差し、本当の自分はこんなんじゃないと考えていたのかもしれない。
Fランをすごく強調していたし、飲み屋で憎まれ口を叩いて帰っちゃうし。
俺にはちょっと難しすぎて、深い意味まで理解できてないと思うけど、キェルケゴールの「死に至る病」や原作の「死刑にいたる病」を読むともっと深掘りできるのかもしれない。
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