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あんのこと
映画紹介
まだこの映画を観ていない方は、こちらの記事をご覧ください。
ざっくりレビュー
ここから先はネタバレがあります。まだこの映画を観ていない方はご注意ください。
グロいとか怖いとかでもないのに、観ているのがつらくなる。
でも、目を背けちゃいけない映画。
とにかく香川杏役の河合優実の演技がすごい。
もう完全に杏になってる。
麻薬の常習犯だった頃の杏、徐々に更生し笑顔をみせる杏、コロナ禍で現実に打ちのめされて絶望する杏。
所作のひとつひとつや表情の作り方が自然すぎて、杏という人物が本当にいるんじゃないかとさえ思ってしまう。
河合優実の存在を初めて知ったけど、度肝を抜かれた。
本当にすごい女優さんだった。
「この映画は実際にあった事件に基づいている」。
映画の冒頭でこの言葉が出たけど、映画を観終わった後に改めて杏のことを考えてしまう。
杏のモデルとなった女性は、コロナ禍の当時何を思い、何を考えていたんだろう。
平和ボケした日本にもこんな悲惨な事件があって、自分の知らないところで過酷な現実と必死に向き合って生きている人がいる。
当然なんだけど、忘れちゃいけない。
改めて突き付けられた感じがした。
“彼女は、きっと、あなたのそばにいた”
今日、すれ違った人の中に杏がいたのかもしれない。
みんな、人に優しくなれたらいいな。
感想・考察・おすすめポイント
1.河合優実の演技力
この映画で初めて河合優実という女優を知ったけど、演技力がすごすぎる!
まだ23歳。
化け物かよ!
序盤の薬物依依存症の感じと中盤の笑顔の可愛さのギャップがすごい。
伏し目がちな目線や固まった指の形に幼さを感じる。
一瞬で虜になった。
細かいけど、新しい就職先が決まって多々羅や桐野と一緒にラーメン屋で祝杯をあげてた時に杏が日記を書いてるんだけど、そこに「くるまいすのそうさ」って平仮名でびっしり書いてあるんだよね。
それを見た時、胸がキュッとなった。
杏、頑張れってマジで思った。
その後、また日記を書くシーンが出てくるんだけど、サルベージで上手く話せなかったことや一人暮らしへの不安、おばあちゃんを心配していることが書いてある中、2019年3月27日の日記に笑ってしまった。
「初給料日。やくそくどおりおごった。タタラはめちゃくってた」
杏の内側が少し見えた気がした。
あと、日記の日付に丸が付いているのは、サルベージで多々羅が言ってたことを実践してるからなんだよね。
薬を使わなかったら日記に丸を書けって。
もう河合優実=杏としか思えないくらい憑依してたと思う。
本当にすごい女優さん。
2.大丈夫に込められた思い
このシーン、めっちゃグッときた。
雨の中、泣き崩れる杏。
そばには注射器。
薬を使ってしまったという後ろめたさなのか、多々羅に会えた安心感からなのか、声を上げて泣く杏。
そんな杏を強く抱きしめる多々羅。
「大丈夫、大丈夫」
多々羅の泣きそうな表情も観てて苦しい。
3.桐野は記事にすべきだったのか
これは意見が分かれそう。
ずっとただのがさつないいおじさんだと思ってた多々羅が、まさかの性犯罪者だったとは。
僕は、桐野は間違っていなかったと思う。
桐野は何も悪くない。
ただ、多々羅の周りのみんながすべて苦しめられていたわけじゃなくて、助けられていた人がいたのも事実で。
だから、記事にする前にそういう人達へのフォローは必要だったのかもなとは思う。
杏のそばにいたわけだし。
一番の悪人は杏の母親だけどな。
4.フィクションとノンフィクション
この映画は、2020年6月の朝日新聞の記事が元となっている。
新聞記事に登場するハナ(仮称)という女性が杏のモデル。
ハナは幼い頃から母親に暴力を振るわれ、小学校3年生から不登校になり、売春や薬物に手を出して逮捕されるなど、映画の杏そのままの過酷な人生を歩んできた。
介護の仕事に就き、夜間学校に通い、薬物も克服しようと一歩を踏み出した頃、コロナ禍になりまわりとの関係が断たれる。
そして、25歳の時に自ら命を絶ったハナ。
河合優実の演技力も相まって、新聞記事の内容が映像として忠実に描かれていると思う。
ただ、映画の後半で杏が近所の女性から子どもを預かってと託される。
これは映画独自のストーリーらしい。
親から虐待を受けた子どもは、自分が親になった時にそれを繰り返してしまうことが多い。
でも、杏はきちんと子どもを育ててたよね。
アレルギーで食べられないものまで手帳にまとめて。
どんなに苦しい環境でも人は変われるんだよということを監督は伝えたかったのかな。
5.キャッチコピー
監督がとあるインタビューで「杏という女性が本当に隣にいるような感覚で作っていた」と言っていた。
どこか架空の主人公ではなく、リアルな一人の女性。
「街のどこかですれ違っていただろうし、こういう人は今もきっといるだろうし、今日もすれ違ったかもしれない」と。
“彼女は、きっと、あなたのそばにいた”
このキャッチコピーに監督の思いが詰まっているんだなと思った。
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